ニュージーランドの冬。
オークランドは雨、雨です。
冬と雨で思い出す、2020年冬の出来事。
コロナで最初のロックダウンをなんとか乗り越えたチームは、少しペースを落とせる冬の営業に突入していました。この時は製造拠点を兼ねる6店舗目のオープン準備も着々と進んでいましたが、3人の首脳陣の中では小麦粉を変えるというテーマが議題に上がっていて・・・。
ボスがやってきて言う。
「Masa、今使ってる小麦粉を変えようと思ってる。俺はオーガニックだろうがオーストラリア産だろうが、タンパクがどうだろうがどうでもいい。とにかく一番おいしく姿形よくパンが作れる小麦粉に変えたい。そして、焼けたら皆で試食して投票して多数決で決める。休みの人も来てもらう。どの生地がどの粉か、絶対誰にも話しちゃいけないよ。知ってるのはYOUだけ。」
当時、仕込み担当だった僕は、
「うわわわ、また何か無茶言い出したよ〜。なぜ、今?? それで俺はどうすれば・・・」と内心、腹をくくったボスのオーラに少し圧倒されていた。
ボスが続ける。
「業者からサンプルが来るから、それ来たら、作って。全部、同一条件になるように。よろしく。」
この仕込みの日は恐らく、この会社で働いて僕が最も混乱を極めた1日になったけど、それぞれ産地、グレード、製法も違う7種類の小麦粉サンプルを使って、生地を仕込んだ。
僕が分割して、ボスが丁寧に、かつ大胆に、生地を成形していく。
翌日焼いて、「Well done.」と肩を叩かれ、祭りのような試食会も終了。
各々が味をみたりアロマを嗅いでみたり形もチェックして、気に入ったパンに投票した結果、小麦粉はオーストラリア産のオーガニックに変わることになった。
年間契約になるので、とてつもない金額の取引になるらしい。僕は仕込みで生産者が分かってしまっていたので、味とかどうとかではなく、ニュージーランドの小さな有機農家に1票を入れた。雑味があって美味しかった。
(オーストラリア産の粉でヘマして、NZ産のやつを見栄えよくさせることもできたなー)
とか考えたけど、決まったことはしょうがない。
「今の在庫が全部はけたら、一斉に切り替えるから、よろしく。」と帰り際にボス。
サスティナブルな小麦粉なのか
オーガニックなのか
ニュージーランド産なのか
生産者は誰なのか
タンパクの質はどうなのか
作業性をとるのか
会社の規模が大きくなり、社会へ与えるインパクトも決して小さくない。
会社として、地域のパン屋として、何を伝えたいか、何を取るのか、
この経験を思い出すと、
僕は、将来独立した時にはしっかりとお客さんに伝える信念をブレずに持ち続けなければいけないとハッとさせられるのです。
(あれ、在庫掃けたけど、新しい小麦粉まだ入って来ないのかな〜)とかざわざわしていると
ボスがニコニコ顔でやって来て言う。
「あの小麦粉、やっぱやめにした。今の粉が一番安定してて良いから変えずにこのままでいこう。いや〜Masa、あのミキシング良かったね〜グッジョブ!」
・・・。涙
長年仕えていると、こうなる結末は少し予想できちゃったりもしたのですが…
第一回小麦総選挙は大差でボスの圧勝で幕を閉じました。
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