肩を並べて

パネトーネはリエビト・マードレの状態が鍵を握る・・・

今のチームに最高の同志でありライバルといえるイタリア人パン職人がいる。

彼が入社してきた最初こそ、僕は古株ゆえのくだらない競争心、イタリア人だろうが負けてたまるかばりの対抗心を燃やしていた。

同じチームで仕事するようになり、誰よりも知識・技術・情熱がありながら、人がやりたがらない泥くさい仕事を率先して片付けたり、周りがテクニカルな仕事をやっている傍らで、マイナス24度のコンテナ冷凍庫に入って行って、棚卸しをしたりする姿を見て、むしろ彼の方がどんどん先に進んでいる、到底かなうわけがないと痛感した。

仕事が終わった後、徹夜してパネトーネの作り方を勉強して、チームがクリスマスシーズンに向けて製造していけるようにレシピを作成したり、これを応用してホットクロスバンの国内大会も先頭に立ってチームを優勝に導いたりと、ハードワークもブレイン的な役回りも見事にこなす。

この数ヶ月、パネトーネ、ピッツァ、クロワッサン、ドーナッツと、ほぼ毎日何かしらのテーマを持って一緒にテストをしている。
砂糖の量を変えたら生地にどう影響するか
モルトと吸水の関係
生地の強度が最終発酵にどう影響を与えるか
パネトーネの中種とPHの関係性、などなど。

僕がやろうとしたクロワッサンがレシピ通りに作って、層がまったく出なかったことがあった。

もう一回作る意味ないなと思って、そのレシピをお蔵入りさせようとした時、

「明日もこれでやってみなよ。Masaがこのレシピ好きかどうか、これから使うか使わないかは関係なくて、大事なのはこのレシピのどこをいじればきちんと成り立つのかを探るってこと。俺はそこから学ぶことのほうが新しいことをやり始めるよりもよっぽど大事だと思うよ。だから、できるまでやろう。俺もそこから学ばさせてもらうから。」

このアドバイスをもらわなかったら、失敗が失敗のまま終わり、そこから何も学ばずに終わっていた。仕事に臨む時の方向性をこういう形で示してくれるのは、いつも本当に有り難いことだなと思うし、視野の広さにも感心する。

そうして、今日はここを変えて、明日はここをいじってと話し合いながら進めて、クロワッサンの層が少しずつ開き始めた。

日々の業務と並行してやっていくので思うように進まないこともあるけど、テストは毎日続けている。

ユニクロのヒートテックは東レとの共同開発で生まれたそうだ。
ヒートテックの技術は東レに根付く「業務時間の10%は各々のやりたい仕事に使って良い」という社風から、とある社員の研究開発が発端で商品化にまで至ったと聞いた。
テスト中のクロワッサンは完成までもう少し。
今は層がしっかり出るようにいろんな切り口から検証しているけど、違うパンの実験から得た知識やデータも生かして、いつかは手間がかかるクロワッサンを「10分で作り終える製法」とか編み出せないかなぁと思っている。
そんな話をしていたら、ロレンツォが冗談まじりに言う。

「毎日同じ仕事ばかりで新しいことに挑戦できないんだったら、家にいたほうがマシだよなー!」

そして今日もロレンツォが帰り際に言う、

「来週は毎日ピッツァのテストやるよー!」

仕事後に家でリサーチしても理解が追いつかないくらい、毎日の実験からたくさん学ばせてもらっている。職場にも感謝だし、彼に置いていかれないよう必死に食らいついていく毎日です。

実験テーマのひとつ、クロワッサンとロレンツォ