シードルづくりは男のロマン

昨年の12月、ナチュラルワインの店でFruit Cruという作り手のシードルに出会った。

オーガニックで、余計なことはうたってなくて、削ぎ落としていて、ダイナミック。

原材料リンゴと酵母、以上。

クリスマスに飲んで、美味しくて、それから気になっていた。

3月、りんごが収穫期に入り彼らの2022年の醸造が始まったことを知った。

思いきって「製造過程を見させてほしい」とメッセージしたら、見学を快諾してくれて、早速飛行機でウェリントンへ飛び住宅街にある工房へお邪魔させてもらった。

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オーナーは二人、コスモさんとジェシーさん。

二人とも、メインの仕事は別にあって、コスモさんはナチュラルワインバー、ジェシーさんは市内のカフェでシェフをしている。

コスモさんが丁寧に順を追って説明してくれる。

– 粉砕した果物→ 絞り果汁→ タンク保存→ 熟成・発酵中のジュース→ ボトリングされたシードル(あと1ヶ月ほど寝かせてから出荷予定)

粉砕した果物

絞り果汁

タンク保存

熟成・発酵中のジュース

ボトリングされたシードル(あと1ヶ月ほど寝かせてから出荷予定)

「理想は低い温度帯で発酵させたい。高いとフルーツ感が飛んじゃうから。」
とジェシーさん。


製造は週に2日。チャーターしたトラックでファームから運んできた果物を洗って、細かく砕く。翌日それを搾ってタンクに貯める。これを毎週、微妙に果物を変えながら繰り返す。昨年は3種類のリリース(シードル2種とペットナット)だったけど、今年は製造量も増やして、5種類ほどになるとのこと。まだオーチャード(果樹園)に6トンほどこれからプロセスするフルーツが残っているらしい。

「去年の生産分は1週間でsold outしちゃったよ。」と聞いて、「あー、これ、みんな待ってたんだ。」と思った。地元の男たちが地元の有機フルーツだけで醸したシードル。ニュージーランドは農業では恵まれてる環境にあるのかもしれないけど、クラフトで手間ひまかける仕事を好む人は少ないのかもしれない。まさに職人の手仕事から生まれた待望の有機シードル。

彼らはお互いのバックグラウンドを活かして、本業では他の仕事をしながら、サイドで、ライフワークで、ファームへ果物を収穫しに行って、ジュースを搾って、シードルをつくる。好きな音楽流して楽しそうにワイワイやりつつも、当たり前にオーガニックのフルーツを使っていたり、テキパキと無駄のない動きがかっこいい。

せっせと果汁絞り!

ジェシーさんは以前オーストラリアで16年、ナチュラルワインの醸造の仕事をしていたこともあって、知識も豊富で情熱家。静かだけど内に秘めた職人。コスモさんは経営者としての経験を活かしながら、ソーシャルにも強そうだし、推進力も感じる。二人とも一昨年のロックダウンの時に自宅でシードルを作り始めたのがきっかけらしい。ジェシーさんがオーストラリアから帰ってきたタイミングで、このサイダリーを立ち上げた。まだまだスケール的には小規模だけど、去年の失敗を今年そのまま活かせているのが大きいと言っていた。

コスモさんが搾りたての果汁をグラスに注いでくれる。このジュースが6ヶ月間の発酵を経て、クリスマスにはシードルになって供される。12月のニュージーランドは夏真っ盛り。今から待ち遠しい。

栄養満点でしょ!と嬉しそう。

糖度のコントロールが上手く出来ず洋梨の果汁200Lをダメにしてしまった昨年。

そして今日、ウェリントンまで来てふと感じたこと。

二人が丁寧に対応してくれて感激した。だけど、

本当は、シードルの作り方じゃなくて、この躍動感あふれるシードルの作り手のことが気になってたんだな、と思った。

YouTubeや本を見ればわかる、作り方のノウハウじゃなくて、

良い仕事をして生き生きと、見せ場を作ってるこの二人に会ってみたかったんだなー、と。

そんなことを感じた。

帰り際、お礼をしながら

次来た時は必ず手伝いますー

と言うと

ガムブーツ(=長靴のこと)忘れずにね!

とコスモさん。

また来たいなと思った。

今回、かなり緊張して気の利いた質問もできず。。。

次来る時は、ただのファンから脱却して、もっと研究して勉強して自分でも作ってみて、

シードルのもっと深いところの話を聞いてみたいなと思いつつ、この小さなサイダリーを後にしたのでした